濵ちゃんの足跡

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26.完成度の高い機種を出荷したら

D社最後のPDC。スピンアイの3機種目。非常にスマートに仕上がった。頑張ったのは機種開発リーダーのK課長。実に細かいところまでチェックし、粘り強く追い込んでいく。手に持ったバランス。200万画素のカメラ。サクサクとうごく操作系。どれをとっても文句のつけようがない。

出荷が始まった。非常に反応がよい。ところが、ここでケチがついた。某M社から購入しているACアダプターに熱くなるものが混在しているという。原因は、中国で生産しているときに約100個の不良部品が混入したと。対象は、過去分に遡って115万台。確率は1/10000に満たない。

話をよく聞いてみる。どのくらい温度が上がるか。表面温度で60℃。大人なら、熱い!とすぐに手を離す。火事になることはない。子供ならどうか。赤ちゃんならどうか。60℃に表面温度があがったアダプター。動けない赤ちゃんがほおをつけたままだったら。あきらかにやけどする。1週間悩んだ。そして出した結論。115万台全品回収。リコールは骨がおれる。オペレータ・部品メーカー・工場が連携して対策する。リコールセンターができる。確実に回収して交換するしかない。

後日、部課長会議で聞いた。「今回は、確率の低さ、販売への大きな影響、いろんな絡みがあった。放置することもできたかも知れない。この状況で、全数回収するという判断は正しかっただろうか。」部課長は、異口同音に「正しい」と返事した。ちょうどおりしも、MMCがリコール隠しで追及されている。我慢する方法もあったが、PL問題の発覚は会社の信用を落とし、ひいては会社の屋台骨を揺るがす。迅速で真摯な対応が要求される。まさに生きた教材であった。いい勉強会になった。

完成度の高い機種。販売直後のACアダプターのトラブルで本体まであおりを食って販売停止状態になり、出鼻をくじかれた。それでも、いい商品はいい商品。結局、総出荷台数は企画台数を超えた。

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