濵ちゃんの足跡

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30.特別講座5(集中と選択)

集中と選択、よく聞く言葉です。但し、実行するタイミングとやり方を間違えると大失敗します。

一般に、何でもかんでも総花的に手を出すのではなく、市場や、顧客や技術分野や商品を選択して、それに人材やお金や時間などのリソースを集中投資するやり方です。

N社はこの考えに基づいて、不採算だった白物架電を止めました。その次に、屋台骨であったパソコン事業もリストラしました。そして携帯電話事業も売却しようとしています。一方、F社はリストラを躊躇しているうちに、残り福的に事業が成功し、今やN社は2兆円規模で赤字、F社は6兆円規模で黒字、これが何を物語っているか、よく考える必要があります。

私にも、こんな経験があります。携帯電話事業の国際統括としてフランスに赴任して僅か半年経ったときのことです。国内事業で、Do社向けの新機種開発に失敗し、Vo社むけ機種もまったく売れず、国内事業が瀕死の状態に陥っているとのことでした。帰国命令を受託した下名はすぐに帰国し、権限を得て、そのときに開発していた全機種の開発を即時中止し、Do社がはじめて商品展開するカメラつき携帯電話1機種だけに全力を集中することを決定しました。その間1ヶ月。全員で開発を分担することにして、商品企画チームに検討させ、一番信用できる機種リーダに開発技術チームを編成させました。決定的な差別化は小型カメラにあると考え、他社の3倍の高解像度カメラの開発に着手しました。全員が必死で頑張りました。多くの新規開発項目がありましたが、通常の開発期間の半分で市場に投入することができました。高解像度のカメラも好評で、結果としてその機種は265万台も売れました。一気に国内事業を回復させることができました。でも、めでたし、めでたし、とはいきませんでした。それだけ集中と選択した結果、他の開発がまったく置き去りになってしまっていたのです。当時は次の世代の機種開発に着手していなければならない大事な時期でした。それについてまったく体制ができていません。いろんなものが後手・後手になってしまい、結局、最後まで挽回できませんでした。

N社の例とカメラつき携帯電話の例を話しました。N社は集中と選択をする度に会社を萎縮させてしまいました。カメラつき携帯電話の開発は大成功したけれども、たくさんの課題を残しました。集中と選択にはたくさんの副作用があります。タイミングとやり方、十分な検討が必要です。

似たような話ですが、議論が必要条件ばかりになっていませんか。XXXをしなければならないとか、XXXが重要だ、とか。売上高を伸ばさないといけないとか、利益をださないといけないとか。国のレベルの議論でも同じことが言えます。国全体の消費を増やし、設備投資を増やして国全体が成長するようにしないと国は元気にならないとか、こんな議論ばかりしています。こんな議論は自明で、そのための十分条件、そのやめに何をどうするか、もっと細かく言えば、それを実現するための5W2Hを議論しなければ、まったく意味がありません。政治家も報道機関も必要条件だけの議論に終始しています。必要条件の議論で方向性は分かるようになりましが、実現性はまったく分かりません。社内でも同じような議論に時間を費やしていませんか。それよりもそれを実現するための5W2Hの議論が何倍も重要です。

特別講座5(集中と選択)

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