濵ちゃんの足跡

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191.A本部長を惜しむ(2)

1年半ほど前に、明石沖の蛸つりに連れていってもらったことがある。件の西村さんとN社の幹部も一緒である。仕掛けはA家秘伝の地元の漁師仕掛け。かまぼこ板の下辺底に数100グラムの錘をつけ、太い番線2本を鍵型に削って縛り付けたもので、そのかまぼこ板に冷凍アジを縛り付けると、錘が海底をと這っても太い番線の針が自然に上に浮き上がって根がかりしないようにしたよく考えたしかけである。このしかけのアジを食べようと蛸が乗っかかると、ちょうどぼろ雑巾が引っかかったような重さを感じる。針には返しがないので、蛸がえさを離さないようにすばやく糸をたぐり寄せる。モタモタすると蛸が手を離してしまう。ちょっとしたコツが必要であるし、たぐり寄せる格好はちょっと滑稽でもある。

生きたままよりクーラーボックスに氷と一緒に入れてシメた方が墨を吐いたりしないから料理が楽だとか、頭をひっくり返して内蔵を取れとか、熱湯に足からゆっくり入れるときれいに丸みがついて茹で上がるとか、超新鮮だから3分以上は茹でるなとか、細かく指導してもらった。去年も行く約束になっていたが、しんどかったであろうか、声が掛からなかった。

下名が入社したときのAさんはEMSの事業化に取り組んでおられた。N社のリモコンを部品レベルではなく、組み上げたモジュールとして納入することによって、付加価値をアップする狙いである。そして地球温暖化が問題になると、太陽光発電に目をつけて、環境&エネルギー本部長として、また新しい事業の立上げに先頭を切って取り組んでおられた。パイオニア精神豊かな人であった。

新しい事業を次々に立ち上げていけないと企業は枯れてしまう。ところが新しい事業は何でもうまくいくとは限らない。困難なことが多いし、むしろ失敗するケースが多い。それでも嫌な顔ひとつも見せず、にこにこしながら取り組んで行かれる姿は、見習わねばならないところが多分にある人であった。

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