濵ちゃんの足跡

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閑話休題(40)映画「ヴィヨンの妻」桜桃とタンポポ

若い頃に太宰治をたくさん読まれたと思いますが、この映画は、太宰治の同じ題名の「ヴィヨンの妻」をもとに、その他の多くの太宰治の本も下敷きにして、ほぼ太宰治の自画像的な映画に仕上がっています。

監督は、根岸吉太郎で、モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞を受賞した秀作です。

内容は、大酒飲みで、自殺願望で、女にも金にもだらしなくて、どうしようもないけどもどこか魅力的な作家の大谷と、そういう破滅的な夫を支える妻の佐和の姿が描かれています。大谷は佐和ではない女性と心中事件を起こします。心中事件は幸いにして二人とも助かりますが、大谷に殺人未遂の嫌疑が掛かり、佐和は、元カレの弁護士に助けを求めますが、弁護料を払えるお金がある訳もなく、佐和は体で清算します。大谷には生活力はまったくありません。そういうひどい大谷に対して、佐和は健気に明るくタンポポのようにふるまい、大谷を愛し続けます。映画のラストシーンでも将来もずっと佐和は大谷を愛し続けるだろうなあと暗示します。

映画の中は、大谷が「佐和さん、女には幸福も不幸もないのですが、男には不幸だけがあります。いつも恐怖とばかり闘っているのです。」という下りがあります。封切りのときにテレビでみたのですが、佐和役の松たか子が「大谷のような人でも本当に好きであれば女性は愛し続けていけると思います。...でも私は嫌です。」と話していました。そういう内容の非常に純文学的な作品です。ですからアクション映画のような面白さはないですが、逆に、展開が面白くて、まったく眠たくなるようなシーンはありませんでした。

映画の好きな人、太宰治の好きな人は一見の価値がある作品だと思います。

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