濵ちゃんの足跡

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閑話休題(63)現代語訳「学問のすすめ」福沢諭吉 /斉藤 孝(訳)=ちくま新書

第5編 国をリードする人材とは(明治7年1月出版)

いまや、外国との交際が突然開けてきた。国内の仕事でも、一つとして外と関係のないものはない。すべてのもの、すべてのことをみな外国と比較して対処していかなくてはならないという状況になった。古来、日本人がわずかに培ってきた文明のあり方を、西洋諸国のあり方と比較すれば、はるかにおよばないどころか、まねしようとしてもおよびがたい力の差を嘆くしかない。わが国の独立が、薄弱なことをますます感じるのだ。

学校とか、工業とか、軍隊とかいうのも、これらは全部文明の形である。これらの形を作るのは難しくはない。難しいのは、目に見えない、耳には聞こえない、売り買いも貸し借りもできない、しかも国民の間にまんべんなく存在して、たいへん強く作用する「人民独立の気概」である。これが「文明の精神」とも呼ぶべき最も偉大で、最も重要なものだ。

時勢に対抗するには勇気がいる。強い勇気がなければ、知らず知らずのうちに、流され、なびかされ、ややもするとその足場を失う。その勇気はただ読書をして得られるものではない。読書は学問の技術であって、学問は物事をなすための技術にすぎない。実地で事に当たる経験を持たなければ、勇気は決して生まれない。

文明のことごとくを手中に収めて、国民の先を行き、政府と助け合い、官の力と民間の力のバランスをとり、一国全体の力を増す。この力の薄弱な独立を、不動の基礎を持った独立へと移し変え、外国と争っても少しも譲ることはない。その方針をしっかり定めて、覚悟を決めて臨まねばならない。

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