濵ちゃんの足跡

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閑話休題(69)現代語訳「学問のすすめ」福沢諭吉 /斉藤 孝(訳)=ちくま新書

第11編 美しいタテマエに潜む害悪(明治7年7月出版)

世の中の人間をすべて愚かな善人であると考え、これを救い、導き、教え、助けようとする。ひたすら目上の人の命令にしたがわせて、愚かな人には仮にも自分の考えを出させないようにさせる。その代わりに、目上の人がたいてい自分の経験を生かして、あれこれをよいように処理してやる。一国の政治も、村の支配も、店の始末も、家の生計も、上の人間と下の人間が心をひとつにして、世の中の人間付き合いを、あたかも親子の間のようにしていこうという考えがある。これが専制政治を生んでいる。

けれども、このような「名分」(美しいタテマエ)は、世の中でもっと頼りないものである。なぜなら、政府と人民は血縁関係にあるわけではない。他人の付き合いである。他人と他人の付き合いでは、情愛を基本にはできない。必ず規則約束をつくって、お互いにこれを守りながら、わずかな権理の差を争いあうことによって、かえって双方共に丸く収まるものであって、これがすなわち国法が生まれた由縁である。

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