濵ちゃんの足跡

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閑話休題(76)佐渡 裕(さど ゆたか)

PHP文庫 「僕が大人になったら」若き指揮者のヨーロッパ孤軍奮闘記より

1961年生まれ。京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾に師事。1989年、新進指揮者の登竜門として権威ある「ブサンソン国際指揮者コンクール」で優勝し、国際的な注目を集める。2011年5月、念願のベルリン・フィルの定期演奏会の指揮台に立つ。

才能

指揮者という世界は、その人に才能がなければとっても不幸な世界だと思う。その才能とは、聴力、統率力、読譜力、分析力、想像力など、いろいろ必要だけれど、それらは、あくまでも指揮者としての特別な能力であり、結局のところ枝葉にしか過ぎないと思う。どの世界でもそうだろうが、ものすごく大事な才能とは、「好奇心、探究心、勇気」という3つの言葉だ。まず「おもしろい」と思うことに出会うこと。次に、それをどこまでも突き詰めてみたいと思うこと。そして、それを試そうとする勇気。このどれが欠けても、才能としては十分ではない。おもしろいと思えることが、回りにいっぱいあると思えるかどうか。また、人間一つの心だけでなく、人それぞれ、いろんな思いが存在することを踏まえたうえで、違う世界にも、大いに興味を持っていきたいと思う。

仲間

僕にとって、非常に大事なもの、それは仲間だと思う。友人なんて、まあせいぜい大学生までにできるものかと思っていたが、それが意外に、三十歳を超えてから、四十歳を迎えようとする最近にも、本当に多くの素晴らしい人に出会った。彼らに共通することは、「進化し続ける人たち」といえる。彼らは、会うたびに進化するのだけれど、それでいて、子供の頃の顔が想像できる人たちでもある。仲間の量は、ものすごい勢いで増え続けている。僕の身の回りを世話してくれている人、友人、仕事仲間、ゴルフ仲間と、ここでは紹介しきれない僕の財産「仲間」がいっぱいいるのは本当に幸せなことだ。

家族

この連載中(97年~00年)に、別居、離婚、恋愛、再婚………、本当にプライべートでも忙しかった。振り返ると、どれもがそのときどき、僕の正直な気持ちの結果であり、素晴らしい思い出であり、「アホやった」と反省することも山ほどある。そんな思いの変化の中で、ずっと見守ってくれていた両親に、本当に感謝しなければいけない。そして、今、最高の理解者、家内の公子を僕は最も誇りに思う。

将来

これから僕は何をしていくか? その問いに対して、何も特別な答えはもっていない。指揮活動にしても「そろそろ、どっかの音楽監督でも引き受けるか……」と思ってなくもないが、それも、正直な話、「音楽をすること」以外はあまり興味が持てないかもしれない。唯一、はっきり宣言したいのは、ゴルフのシングルプレイヤーを目指すこと! これだけは、必ず、近いうちに実現しなければいけない。僕にとって、ゴルフは楽しくもあり、苦しくもあるもの。それだけにおもしろく、奥が深く、自分が自分に対する意地みたいなもの。練習しただけ結果がでるものであり、ラッキーも少し手伝い、いい気持ちにさせてくれる。しかし、生まれながらに神様が与えてくれるゴルフの才能は、僕にはない。だからこそ、僕自身が、「好奇心」「探究心」「勇気」を試す場になるわけだ。小学生の頃、通信簿に先生に書かれた「やればできる子です」を証明するいい機会だと思っている。

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