濵ちゃんの足跡

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閑話休題(70)現代語訳「学問のすすめ」福沢諭吉 /斉藤 孝(訳)=ちくま新書

第12編 品格を高める(明治7年12月)

学問本来の趣旨は、ただ読書にあるのではない。精神の働きにある。この働きを活用して実施に移すには、さまざまな工夫が必要になる。「観察」と「推理」で自分の意見を立てなければならないが、学問の手段はこの二つで尽くされているというわけではない。読書とともに、本を書かねばならない。人と議論しなければならない。人に向かって、自分の考えを説明しなくてはならない。これらの方法を使い尽くして、はじめて学問をやっている人と言える。

これを実現するためには、見識・品格を高めなければならないが、人間の見識品格は、深遠な理論を議論して高まるものではないし、また広い知識を持つことで高まるものではない。物事のようすを比較して、上を目指し、決して自己満足しないようにすることである。

このことは国についても言える。例えば、かって、世界を席巻したインドやトルコの文明は、現在、他の国にちっとも貢献しないのはなぜだろうか。それぞれの国の人民の視野が、ただその国内だけに限定されていたからだ。自国の状態に満足しきって、他国との比較は部分的なところだけにして、そこで優秀なしと思って判断を誤ったからだ。議論もそこで止まり、仲間をつくるのもここで止まった。勝ち負けも、栄誉も恥辱も、他国のようすの全体を相手に比較することなく、人民が一国内で太平を楽しんだり、兄弟喧嘩をしているうちに、西洋諸国の経済力に圧倒されて国を失ってしまった。西洋諸国の商人は、アジアで向かうところ敵なしである。恐れないわけにはいかない。もし、この強敵を恐れることに加えて、その国の文明を目標にするのであれば、きちんと内外のようすを比較して、その上で努力しなければならないのだ。

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